どうやら彼は、職業は海賊、所属が白ひげ海賊団1番隊隊長、そして現状が迷子の違う世界の異邦人だったのでした。・・・って嘘だろオイ。扉を開けたらそこは別世界でした! ・・・なんてことはなったけどそこにいたのは別世界の住人でした、だ、と? いやいやふざけんなちくしょう。

「いや、ねぇ!? うっそだろ! ふざけんなよ! んなことあってたまるかああい!!」
「・・・いや、あァ、わ、悪かっ」
「あ、いえいえマルコさんに怒っているわけじゃなくて」
「よ、よい?」

別に彼の話を信じないというわけではない。現に彼は密室に現れたのだ。彼が玄関にいたのは、どうやら窓から外の景色を見て、驚いて外に出ようとしていたところだったらしい。けれど鍵の開け方がいまいち分からなくて、さてどうしようかというところで私が鍵を開けたのだ。我ながらなんてタイミングだ。だからここで、彼の話の信憑性がひとつ上がっている。すごく気まずそうにしている彼を前にして、盛大に叫んでしまったが、ただなんというか、彼の話は。

「信じ難いのは・・・事実ですけど、でも」
「・・・?」

言いよどんだ言葉にこてん、と首を傾げる姿がなんだか様になっていて可愛くて魅力的でした。っていや何でだよ。こんな奇抜な格好をした、多分私より10、20は離れている人なのに可愛いとか、しかも男なのに。自分で持った感想にすごく疑問を覚えながら、しかし無言で先を促す彼に答えを述べた。

「なんだか、理不尽、で・・・」
「・・・と、いうと?」
「だ、って・・・つまり、ですよ。マルコさんはいきなり訳わかんないところに来て、来たと思ったら違う世界で・・・私は泥棒扱いしちゃうし・・・なんかこんな、こんなのって、ないじゃないですか・・・っ」

ぎゅ、ともう随分と前に崩した膝の上で手を握る。彼の話を完全に信じたのかというと、それは分からない。でも、彼が途方もなく困っていることだけは分かった。あと世界を超えてしまったという超常現象はちょっとまだ頭が追いつかないので置いておくとして、でもその彼の世界とやらから見ず知らずのこの世界に投げ出されてしまったらしいという、話はなんだか。

「ひどいじゃ、ないですか・・・」

一体彼に何の非があってこんな事態になったというのだ。そんな思いで私はいっぱいになっていた。話を聞けば、しかも大きな戦いの後で、なにかと仕事を残してきてしまったというではないか。そして勝手な印象からして、たぶん彼はその船にいなくてはならない存在だ。っていうか隊長って名乗ったし、しかも1番目っていってたし。だというのになんだって世界は彼をこっちによこしたっていうんだ、あほか! 馬鹿か! 神様なんていうのがいるのなら、今日という今日は恨めしさに殴ってやってもいいとさえ思う。

「・・・怒って、くれるのかい」
「え?」
「いや、おれが、怖くはねェのかよい」
「・・・怖くは、ないですよ」

海賊が怖くないというのもおかしな話なのかもしれないが。けれど話の中ほどから頬杖をついて、眠そうな目でこちらをみる彼が怖いとは、思えなかった。それは海賊というものがどういうものか、理解していないからかもしれなかったけれど。

「話を、信じてくれんのかよい」
「・・・一応、は」

言いながらも困ったように寄る彼の眉に、私もどう言えばいいのか分からなくなる。確かに異世界なんて、それは荒唐無稽な話だ。とても信じられるとは思えないし、彼自身もそう思っていたのだろう。けれど、彼の語った世界の話は、本当に、そこにあった事実をありのまま、そのままに話しているようだった。質問すれば詰まることなく返答が返ってくるのだ。だから無茶苦茶だけど、でも彼の困りっぷりというか、途方のなさっぷりは信じようと思ったのだ。そして私はすこし躊躇いながらも「・・・信じます」と答えたのだ。

「・・・お前は、優しいよい」

私が言えば、頬杖をついたままゆるく、でもどこか寂しそうにわらった彼を見て、私はもうこのとき既に決めていたのだろう、と思う。


それは些細でありながら、
しかし引き換えがたい大切なものである。



トリップしたマルコさんに非なんてもちろんありゃしませんが、原因を強いて言うならば、私やもろもろの女子のハートを射止めてしまったせいです(おい

×