「しかし違う世界・・・ですか」
「そうなるよい」
「つかぬ事をお聞きしますが・・・」
「ん?」
「ご住居は」

聞くと、彼は困ったように「あると思うのかよい」と少し皮肉っぽく笑って返す。それに私も苦笑いを返し、まあ、ですよねーと思う。さっきから彼の口数は少なく、きっとこれからのことを懸命に考えているのだろうか。それともあまりのことに放心してしまっているのか。「さて」と立ち上がった彼を見て、どうやら彼の考えは前者だったようだ。

「長居するのも悪いしな」
「・・・いや、ま、待ってください!」

そのまま立って玄関に行こうという彼に慌てて声をかける。何故かって、そりゃあの格好のまま私の家から出て行かれたら困るのからだ。さっきは警察を呼ぶことで頭が一杯だったのに、身の上話を聞かされたらそうもいかなくなった。ああでも、私はそんなお人よしだった、か?

「申し、上げにくいんですが、」
「なんだよい?」
「マルコさんのそのままの格好だと・・・ちょっとまずいです」

彼が誇りだと笑ったその刺青も、しかしこの平和主義である日の本ではそうはいかない。けれど彼は思っていたよりも平淡な反応で「あぁ」と納得したように声を漏らし、また思案するように座布団へ戻る。服を貸そうか、とも思っていたがあいにく彼の身の丈に合う服は探してもないだろう。大体服だけ貸してはいさようならって、それもなんだか・・・。ぐぐ、と知らずの内に眉間にしわが寄る。どうしよう、と思う。彼をこのまま投げ出していい気がしない。それにこの場所に現れたなら、帰るときもこの場所にいたほうが・・・。思って、私はもう彼の話を信じてることに驚いた。だめじゃないか、新手の詐欺とかそういうのだったらどうすんだよ、と冷静に突っ込む私と、でもさ、と良心が軋む思いで板ばさみになる。どうすればいいのだろう、嘆息すると、彼が口を開いた。

「・・・なぁ
「は、はい」
「悪魔の実、話したろい?」
「え、あぁはい。能力と引き換えに海に嫌われるって言う・・・」
「そうだよい、分かってんならいい」

そういうと彼はすっと机の上でこちらに右手をさし出す。なんだろうと彼を窺い見るが、彼は「見てろよい」と言うだけ。不思議な思いのまま言葉通りにその手を見詰めると、突然ボワッとその腕が青く燃えていた。・・・ってえ?

「ええええ!?」
「能力は使える、か・・・」

冷静に呟いた彼に何が能力だ!? と思いながら立ち上がる。無意味にキョロキョロとしながら水を、なんか厚手の布を、じゃないと燃えてしまう! とパニクった頭で考える。

「あー焦っているところ悪ィが」
「なななんですか!」
「落ち着いて見てくれよい」

そのあまりに冷静な声にそんな場合か! と視線を合わせるが、けれどもう彼の腕は燃えてなかった。あれ? 目の錯覚? と思ったが「こっちだよい」と逆の手を見ると今度はそちらの腕が燃えていた。

「!?」
「はは、いいリアクションだよい」
「言ってる場合ですか!」
「こういう能力なんだよい」
「・・・でもっ」

なおも立ち上がりながら言葉を続けようとする私を見て、笑いながら「まぁ、大丈夫だから座れよい」と彼は言う。それになんだか少しだけ憤りを感じたが、実際のとこ彼以外に燃えているものは何1つないのでどうしようもなく、私は言われるがままに元の位置に腰を下ろすしかない。

「おれの能力は不死鳥なんだよい。不死鳥のマルコ、って言やあちっとは有名だったんだがなァ・・・」
「それは・・・、・・・燃える能力、なんですか」
「いや、まぁ見た目はそうだが。再生の能力だよい」

だから炎は熱くないし、何かを燃やすこともないと言う。それに一安心するが、だったら先に説明して欲しかったとも思う。

「信じて、くれたかよい?」
「・・・もう一度、見せてもらえますか」

そういうと眠そうな目のままに、彼はまた手をボワッと燃やす。それをまじまじと見詰めると、なんだかその炎はキラキラと輝いて見えるようだった。そしてその色はなにかを焼き尽くすような赤ではなくて、綺麗な青だ。碧いともいえるその色は神秘的だった。なるほど、再生の能力か。燃え立った先のほうが薄く黄色いグラデーションになっていくのが、余計にそれを引き立てていて。答えを返すのに時間はかからなかった。

「信じます」

その答えに、彼は体の端々でその炎の色を揺らめかせながら、また頬杖をついて満足そうに笑っていた。


ありふれた日常へ、
射した鮮色はいっそ苛烈であるから目を奪う。



彼の炎は神秘的で魅惑的で鮮烈で、つまりはすんごく綺麗で見る者を魅了するんだと信じて疑いません←
・・・ってまあ言い過ぎかもしれませんが、でも青とか蒼とか碧とかって表せるのがすごい素敵というかそこが魅惑的というか。絶対綺麗だと信じて疑わないというか炎の色には絶大な夢を見ている(笑

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