泥濘に足を取られまして
13

ローさんに言われて、気づいてしまった。私は、この恋をまだ諦められていなかった。諦めたくなかった。そしてそれなのに、叶えたいとも思っていなかった。なんだか自分でも矛盾すると思うのに、妙に納得がいってしまった。
私はこの想いを散らすことも、咲かせることもしたくなかったのだ。蕾のまま、誰にも触って欲しくなかった。そんな心地になってしまったのだと、それを素直に伝えれば、彼は顔をしかめて「理解できねェ」とまた言って寄こした。確かに、他人からすればそうだろう。いつまでも報われないけれど、それでもいいと言っているのと同じなのだから。
「想ってりゃ満足とは大層だな」
「・・・そういうわけじゃぁ、ないとは思うんですけど。・・・あーでも一緒なのかなぁ・・・?」
彼の言葉で初めて至った境地だったので、自分でもいまいち掴めていない。満足、そういうわけでもないのだけど。ソファの背凭れに身体を沈めて、まどろみながらうわ言のように呟く。
「ただ思うだけの幸せも、きっとあるんですよ・・・」
そういって笑っても、彼は眉を寄せるだけだったが、私は不思議と充足した気分だった。満たされた想いが心地よくて、目を閉じると眠ってしまいそうである。
「んー、ローさん私、ちょっと寝ます・・・」
「・・・自由だな、変わらず」
苦笑したような、もしくは呆れたような声が聞こえたが、すでに心地よい睡魔に襲われて、定かではなかった。
「・・・無防備なのも、大概にして欲しいもんだ・・・」
呟かれた言葉は、私の耳には届かない。



「・・・・・・ぅ、ん・・・?」
どれくらい寝たのだろうか。頬に冷たい感覚がして、なんだろうと目を開けると、そこには端整な顔が迫っていた。・・・why?
「!?」
「・・・起きたか」
「ろ、ローさん? 何事です、この距離は」
「あ? ・・・残念なことに何事もねェなァ? この距離で」
「いやそうじゃなくて・・・!」
くく、と笑う彼は「冗談だ」といって、その様子はいつもと変わらないので、私はからかわれたのだと気づく。恨めしげに見上げるが、彼は気にしたようでなく、ぴたりと私の額に手を当てた。それはまるで熱を測るようで、ん? と見上げると、彼は「やっぱりな」とため息を吐いた。やっぱり?
「顔が赤い。微熱だ」
そういった顔は、なんだかいつもより苦々しくて、「あれまー・・・」と他人事のように呟けば額を小突かれる。痛い。
「熱が上がっても厄介だ。大人しくベッドに向かえ」
「えー・・・」
「駄々をこねるな」
でも、熱があると自覚してしまうと身体が妙にだるい。病は気からと言うのは本当らしい。動きたくない、といっても、ソファは生地のせいで熱が逃げなくて、自身の体温以上に熱くて少し気持ちが悪い。というかなんだか、頭がぐわんぐわんして気分が悪い。これは本格的に風邪を引いてしまったか。
「・・・い、おい、倒れるなよ」
「は・・・い・・・」
「チッ・・・言ってるそばからか」
どうもだるくて動く気が起きず、ずるずるとソファから落っこちていく。しかしハハ、これはちょっと情けないな・・・と鬱陶しく額にかかる髪を掻き上げた瞬間、身体が浮いていた。
「おふう!?」
「・・・ハァ、少し黙ってろ」
急に変わった視界に、驚きと気持ち悪さであられもない叫びを上げれば、ローさんに呆れられる。あろうことか、私はローさんに抱えられていた。所謂、俵抱きと言うか担がれている状態である。っていうかそんな軽々私を抱えちゃうなんて意外と力があるんだな、とか、そこは王道に則って姫抱きじゃないのか、とかも思ったが、されたらされたでたぶん恥ずかしさで死ぬことができるな、と思ったので彼の選択は正しくて、私は大人しく運ばれるのだった。


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今気づいたけど恐ろしいほど名前変換が出てきてない。自己紹介したっきりない。どういうことなの。でもネームレス好きなんですよね、名前出したとき重要感があって(でも大体無計画に話を進めるので大した場面じゃなかったりするという)あと楽だし(おい)